DX(デジタルトランスフォーメーション)と2025年の壁

最近ニュースでちらっと見る機会が有った2025年の壁についての話です。
経産省が発表したレポートなどに基づいた意見です。


DXとは

2020年に経産省が定義しています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

DX_Literacy_standard_ver1.pdf

2025年の壁とは

2018年発表の経産省の資料から。

複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存した場合、2025年までに予想されるIT人材の引退やサポート終了等によるリスクの高まり等に伴う経済損失は、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)にのぼる可能性がある

20180907_03.pdf

「経済損出」が2025年の壁になっているという事ですがいくつか根拠も記されています。

  • レガシーシステムに起因して起こる不具合の内、原因割合79.6%に相当するシステム障害(セキュリティ・ソフト不具合・性能や容量不足・ハード故障や不慮の事故)による経済損失が2010年代で約4兆円/年
  • 基幹系システムが21年以上前から稼動している企業の割合は20%、11年~20年稼働している割合は40%、この状態のまま10年後の2025年を迎えると21年以上稼働している企業の割合は60%になる ※2018年のレポートだがデータは2015年

つまり2015年時点で21年以上稼働しているレガシーシステムの割合は20%で、このままだと2025年には60%になり約3倍、かつレガシーシステムに起因するシステム障害の経済損失が4兆円/年であることから12兆円/年となっていると。


そもそもDXが何故必要なのか

レガシーシステムを単にリニューアルするだけでは駄目なのか?ハードは置き換えれば済む話では有ると思うのですが、レガシーなハードを置き換えるといってもコストの面からダウンサイジングするとか、同時に既存の不具合を改修する必要が有るとか、モダンな作りに変える必要が有るとか、OSや新しいインフラに対応する必要があるとか、トレンドが変わっていくことへの対応とか、ソフト面でも考慮する事が多々有ると思われます。
レポートが上げている課題として、
(人材面)IT人材が不足する(2015年時点で約17万人不足→2025年で約43万人まで拡大)
(人材面)先端IT人材やレガシーな言語に対応出来る人材の供給不可
(技術面)SAP ERPのサポートが終了する
(技術面)サービスなどデジタル市場の拡大→新市場に対応出来る人材の不足
ハード+ソフトのリニューアルにおいては、ハードは生産能力の増強が出来るがソフト面についてはどうしても供給限界が有る(そもそもの人不足や教育コストや期間の問題)ため、結局は「エンジニア不足」という事になるのでしょう。


ではDXを進める前提で課題は有るのか?

  • DXによりビジネスをどう変えるかといった経営戦略の方向性を定めていくという課題
  • そもそも、既存システムが老朽化・複雑化・ブラックボックス化する中では、データを十分に活用しきれず、新しいデジタル技術を導入したとしても、データの利活用・連携が限定的であるため、その効果も限定的となってしまうという問題
  • 既存のITシステムがビジネス・プロセスに密結合していることが多いため、既存システムの問題を解消しようとすると、ビジネス・プロセスそのものの刷新が必要となり、これに対する現場サイドの抵抗が大きいため、いかにこれを実行するかが課題
  • 既存システムの運用、保守に多くの資金や人材が割かれ、新たなデジタル技術を活用するIT投資にリソースを振り向けることができないといった問題

次の章で1つずつ見ていきます。


経営戦略の課題

「経営戦略」と言っていますが、つまりは新しいデジタル技術をどの様にビジネスに活用してどういった効果(最適化)を得たいのか?という事です。
DXには3つのステップが有ります。

デジタイゼーション > デジタライゼーション > デジタルトランスフォーメーション

デジタイゼーションとは、従来のアナログ情報をデジタルデータにすること。例えば、紙書類の電子化(請求書や契約書、領収書、カルテ、アンケート、アナログテープ、業務日報や報告書、設計図など)。
デジタライゼーションはプロセスも変化させるものです。例えば電子申請・承認システム、モバイルアプリでの振込や残高照会、勤怠管理システム、オンライン会議、CRMシステム、電子署名システムなど。
デジタルトランスフォーメーションは、ビジネスモデルや組織全体の構造を根本的に変えるものです。例えば、サブスクリプションモデル、オンライン診療、スマートファクトリー、フィンテック、AIを活用した評価システム、スマートホーム、スマートデバイス、オンライン研修など。

当社でも、研修制度に限って言えば以前は座学の研修制度が主でしたが業務の都合で日程が取れないとか通学の手間、またそれだけ時間とコストを掛けて価値の有る研修なのか(実際に受けてみないと分からない)など課題が有り、現在はオンライン研修制度を設ける事でこれらの課題は解消されたものと思います。例えばこういった利点が有ります。
・業務の隙間時間を有効活用出来る
・(極端に言えば)24時間365日いつでも受講可能(趣味系の講座も有ります)
・技術研修コースが豊富に有り、自分のレベルや希望に合うものを選んで受講出来る(申請と認可が不要)
・通学による心理面の負担が無い

話を戻しますが、デジタイゼーションで十分なものなど業務の性質を理解して目標を立てることが必要になります。もちろんビジネスの目標としての「DX」も必要で、それは競争力を強化して顧客価値を最大化するもので無ければなりません。単に稟議などのワークフローを構築するというのはデジタライゼーションで十分です。

<<ビジネス価値の創出>>

  • 新しい収益源の創出(新製品や新サービスの展開による顧客層の拡大)
  • 既存ビジネスの改善や最適化

<<コスト削減や効率化>>

  • 業務プロセスを自動化する(RPA、AI)
  • リアルタイム分析による意思決定
  • サプライチェーンを効率化(在庫管理、調達)

<<組織文化の変革>>

  • イノベーションを促進する企業風土の醸成
  • データに基づく意思決定文化を確立する
  • DXに対応出来る人材育成

いずれにせよ、ビジネス変革を意識した中長期的な経営目標・計画と、業務の性質に基づいたDX化計画が必要でしょう。


既存システムの課題

DXを推進するにあたり問題になるのが、ブラックボックス化されたレガシーシステムをどうやって適合させていくかという課題です。
ブラックボックス化の原因は主にマネジメントが不十分な事に有ると言えます。
経験則で言えば、超大手Sierが開発したシステムで有ってもブラックボックス化は普通に起こります。原因はさまざまですが、

  • 低コスト・短納期での開発を強いられて適切なスキルの人材を充てられないか、設計に時間を割けない
  • 仕様変更・追加が頻繁に発生して設計に破綻をきたす
  • 要件定義が不十分でリリース段階で仕様漏れが有り暫定対応したものが恒久対策となった
  • そもそもの開発技術不足

また、レガシーシステムを再構築するにあたり、新たな問題として

  • 現行システムが動作する前提での業務なので、ユーザ側にシステムに詳しい(「要件定義出来る」)人材がいないか、退職している場合が有る
  • 部署毎に部分最適化されたシステムの場合、データ統合が難しい
  • 企業最適されたシステムが多く汎用性が無い(過剰品質)ため、その企業に特化した専門性の有る人材の不足
  • コストに対する理解不足(ソフトウェアは中身が見えないため、高コストであるということの認識が薄い)

これらの問題に対しては、ユーザとベンダーの相互理解が必須であり、運用・保守までを含めた総合的なコンサルティングの元で十分な期間とコストを掛けて行うことへの理解が必須と思います。
自社にIT部門が有り、計画に基づいて部分発注出来る企業は多くないです。単に「安く」「早く」やることが本当に競争力の強化に繋がるのか良く検討する必要が有ります。


業務プロセスの課題

DX化により業務プロセスそのものが変化する場合が有ります。
業務プロセスの内容はベンダーでは把握出来ないため、ユーザと一緒に検討してゆく事になります。まずは現状の業務プロセスを正しく絵に書けること、そしてDX化による変化と影響をユーザとベンダーが共有出来ること。
そして、プロセスを繰り返し検証する事によって、DXの最終目標に則った業務プロセスになることが前提です。
単に今後はこういう風に変わりますではなくて、経営層にも「経営目標を達成するため業務プロセスをこう変える必要が有る」などのコミットとサポートが必要でしょう。

DX化によって何が変わるか?
ベンダーはプロセスの変化に対して鈍感になりがちです。ユーザからすれば「DX化」=「業務プロセス」であり、どの様に業務を行うかは重要な事であり、仕様変更が多発するのはこの業務プロセスを正しく定義出来ていない事によるでしょう。
従って、ユーザもベンダーも業務プロセスの策定にあたっては十分な期間と、議論とコストを掛ける必要が有ると思います。


運用・保守の問題

運用・保守についてはハードの面とソフトの面が有ります。
ハードに関しては、「壊れたら取り替える」でも良いのですけど、それは業務の性質によるでしょう。ある意味保険と同じで、定期的に診断・メンテナンスをして必要であれば事前に入替える、即日部品を持ってきてくれるメーカー・サポート契約も有ります。
ソフトについては、大手企業であれば当社からエンジニアが常駐してトラブルだけではなく、日々のシステム化相談などにも対応する事が有ります。
中小企業だと、そこまでのコストが掛けられない場合が多く、基本的には保守契約を締結した上で平日業務時間内だけなどの制約の中で電話やリモート対応という事になります。
保守契約に関しては、単なるQA的なものや操作方法のアドバイス、別途スポットでメンテナンスという事も有ります。
そういった場合、異なる担当者がそれぞれ問い合わせるのではなく、誰か担当を決めて頂いて窓口になって頂いた方が、その方にノウハウの蓄積が貯まります。


「2025年の壁」というのはレガシーシステムを抱えた企業が今後、その技術的負債と人材不足によりDX化が遅れ経済的損失が発生するかも知れない、という提言が元に有ります。
実際、私達ITの業界ではずっと人材不足が続いており今では常にキャリア採用を行っている状況です。また、本年より新卒採用も開始していて今後数年かけて教育・研修を通してスキルアップし現場で思う存分実力を発揮してもらいます。
また、当社ではTier1である自動車部品メーカー様との直取引、子会社を通じた中小製造・メディア企業との直取引で基幹インフラ構築から運用、業務システム開発、レガシーシステムの刷新といったプロジェクトを行っています。
顧客層拡大、業務拡大に向けた企業買収、それと同時に積極的な人材採用を通じて体制を固め、さまざまな層のお客様のDX化に寄与して行きたいと思っています。

2024年11月12日 手塚幹人

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